異界への入口「KARA COMPLEX」

P1000712貧乏学生の4畳半のアパートの壁には、芝居のチラシが飾ってあった。「ユニコーン物語」「唐版 犬狼都市」「河童」・・・それらのチラシは、貧乏学生にとってのアートだった。かつて、横尾忠則、金子國義、篠原勝之らが手がけたポスターは憧れだった。“前衛”とか“アングラ”ということばは、消えかかっていた。次の世代、野田秀樹も既に登場していた。そのアングラ演劇のお終いの頃を辛うじて観ることができた。今思えば幸せな演劇ファン。

新宿花園神社の境内、高層ビルが乱立し始めた頃の新宿西口、池袋びっくりガード横の空き地。そんな場所に張られた紅テント。そこは日常から異空間への入口だった。芝居が始まる前のテントの上に不破万作と十貫寺梅軒が登り、観客を挑発する。開演を待つ観客たちは、“テントの外=現実”と“テントの中=異空間”の狭間にいるような不思議な気分でテントの前に並んでいる。見世物小屋の前口上を聞いているような、楽しい時間。そう、観客たちはテントの中で騙されるのだ。分かっていながら騙される楽しみ。現実と隔離されたテントの中で起きる“物語”の非現実性を、現実であるかのように楽しむのだ。

唐十郎作品を内藤裕敬演出、椎名桔平、萩原聖人、黒木メイサらの出演による『調教師』を観た。トタン小屋の二階、安酒場で繰り広げられる物語。象徴的で暗喩に満ちた台詞。独特の言い回し。キャストを知った時には大丈夫かなぁと思ったけれど、実に良いのだ。桔名詰平も、萩原聖人も。こんな綺麗な娘は状況にはいなかったなぁと思う黒木メイサも。聞けば椎名は、唐の影響を強く受けた劇団、新宿梁山泊にいたこともあったという。なるほど納得。

そこは紅テントではなく、根津甚八も、小林薫も、李礼仙も、唐十郎さえもいなかった。詰めずに座れる椅子席。舞台装置も立派で、観客の服装も小奇麗だった。でも、確かに、その舞台には唐十郎の匂いがした。しかし、唐芝居を初めて観た、ストーリー優先の妻が呟いた。「どんな風に観たらいいか分からんかった!私はこれダメだぁ」・・・予想通り。彼女にとってはアガペーストアを主宰する松尾貴史が二つ隣の席に座ったことが、本日唯一の収穫らしい。仕方ない。次はオバ友達と一緒に観に行くかぁ。

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